おめでたいことに、主にTwitterで個人的にお世話になっている長期株式投資さんが本を出されました。本のタイトルは、『オートモードで月18.5万円が入ってくる「高配当」株投資』です。
長期株式投資さん(以下、長期さん)といえば、他のブロガーとはちょっと毛色が異なります。というのも、ブログを長年続けていてTwitterのフォロワー数も7万人以上いるにも関わらず、集客目的や承認欲求を満たすような発信をしているのを見たことがないという稀有な方です。
雑誌や取材のオファーもおそらく来ているでしょうが、すべて断っているのでしょう。このフォロワー数と認知度があれば、稼ごうと思えば月10万円ぐらいは軽く稼げると思いますが、お金では動かぬこと山の如しといったそのスタンスは他のインフルエンサーやブロガーとは一線を画します。
その長期さんが本を書いたと聞いたときは、本当に驚きました。万巻の書を読み漁ってきた本の虫である長期さんなら、本の出版だったらワンチャンあるかもなぁとは思っておりましたが、ついにこの日が来たかと心躍ったことです。
お金や承認欲求では動かない長期さんが本を書く目的は、以下のように記載されております。「本書の目的は、これまで株式投資をおこなった経験のない初心者が、この一冊で長期配当投資のノウハウを学び、実践できるようになること。」
これはつまり、長期さんのこれまでの発信と同様に、初心者投資家が知識と経験の無さゆえに暴落時に退場してしまうという歴史的に繰り返されてきた悲劇を解消するためだと考えられます。本書は、その想いが詰まった魂の本といえるでしょう。
配当を目的とした日本の個別株投資を軸とする長期さんの投資スタイルは、米国株を中心としたインデックス株式投資家の私とは大きく異なります。しかし、どちらも根っこの部分は分散を利かせてタイムレンジを超長期(理想は永遠)に構えた配当再投資を前提とした株式投資です。
アプローチは違えど、その目的は資本主義社会(株式会社群)が長期的には資本の自己増殖を行いながら経済成長していくことを信じ、株式投資を通じてその豊かな果実のおこぼれに与ることです。その主となる部分がキャピタルゲインであろうがインカムゲインであろうが本質は変わりません。
したがって、その神髄は当然ながら重なる部分が多く、投資スタンスが違えども勉強になる部分が目白押しです。また、暴落時のメンタル安定剤として本書の効果は抜群でしょう。その引き出しの多さ、精緻さ、論理展開は、まさに圧巻です。
ということで、本記事では個別株投資家だけではなくすべての株式投資家が読むべき至極の書『オートモードで月18.5万円が入ってくる「高配当」株投資』をご紹介します!
個別株志向、配当志向の初心者投資家への福音書
本書は特に初心者投資家をターゲットとしており、初心者が市場の荒波に翻弄されることのない賢明な投資家になるにはどうすれば良いかということを主眼とした構成となっております。
漏れなくダブりなくMECEに初心者投資家が陥りやすいミスをカバーしており、果ては銘柄選定とポートフォリオの構築手順までも解説されております。誤解を恐れずに言うと「過保護」ともいえるような内容です。
私は個別株志向ではないですが、こうやったらまぁ大丈夫だろうなぁと納得できるような肝となる勘所を抑えた内容であり、個別株や配当株を中心に投資したいという人が周りにいたら本書をまずお勧めするでしょう。
というのも、投資において真に重要なのは分散と長期保有と配当再投資だと考えており、それさえ守れていれば多少の差こそあれど全員多大なる利益を享受できるというのが私の見解なのですが、これらがなぜ必要であるか、またそれを実践するにはどうすればよいかを理路整然と説明されているからです。つまり、投資スタンスとしては長期配当投資を掲げておられますが、本書は株式投資家全員が心得ておくべき内容を網羅しており、かつわかりやすく解説しているのです。
また、個別株投資特有のリスクとしてクズ株を選んでしまうリスクがありますが、それに関しては配当利回り(配当性向も考慮)、EPS、PERという外してはいけない基礎の基礎を丹念に解説しております。ほかにも重要なファクターは色々とあると思いますが、これを守っておけばまず大敗はしないという優先順位の高い指標を与えてくれるので、初学者であっても情報過多により消化不良になることはなく、スムーズにステップアップしていけることでしょう。
さらに、これは著者としては勇気のいることだと思いますが、本人の永久保有銘柄17選を紹介しております。これらの情報をもとに、20銘柄に均等分散投資をしましょうというのが本書の推奨する手法となります。20銘柄であれば、非システマティックリスクの大部分を排除可能であり、かつメンテナンス性もほどよい絶妙なラインといえるのではないでしょうか。
全投資家必見!ピンチ(暴落相場)をチャンスに変える方法
たとえ入念に分析して価値を見出した銘柄であっても、長期保有を行うためには投資哲学がしっかりと頭に刻み込まれていないと難しいかもしれませんが、そこはさすがは長期さんの面目躍如といったところです。投資の神様ウォーレン・バフェットはもちろんのこと、投資の偉人・賢人たちの珠玉の名言を随所に引用しており、暴落相場時にも市場に翻弄されることのないぶれないメンタルが育まれること請け合いです。
また、メンタルや考え方だけではなく、「投資を続けるための仕組みづくり8つの掟」が第四章に記載されています。これらを守れれば、リスク許容度を極度に超えていない限り、相場で生き残ることが可能でしょう。私自身もとても勉強になる内容でした。
投資初心者が最も陥りやすく、かつ再起不能となるような破壊力があるのは暴落相場での狼狽売りです。これは、初心者に限らず、経験を積んだ投資家にも当てはまることでしょう。そのような例は枚挙に暇がありません。
これを克服するためにはどうすればいいかということを徹底的に誰にでもわかるように噛み砕いて説明していることが本書の最大の功績であると私は思います。この本で救われる投資家は多く、守られる資産は相当なものでしょう。
インデックス投資家の私が何故こんなにも共鳴するのか不思議に思われる方もいるかもしれませんが、それは巻末のおすすめの投資本を見れば納得されるでしょう。というのも、インデックス投資家のバイブル本(ウォール街のランダムウォーカー、敗者のゲーム、シーゲルの緑本)や、わたしも大好きな本であり人生訓までも学べる「私の財産告白」、「バビロンの大富豪」をはじめ、時間に風化されない株式投資の歴史的名著が目白押しだからです。冒頭で述べた通り、戦術(アプローチ)が異なるだけで、株式投資で豊かになるという目的は同じです。故に、僭越ではございますが、辿り着く場所(投資哲学)に共通項は多いという認識です。
おわりに
本書を初めて見た時、その射幸心を刺激するキャッチーなタイトルや、ピンクを基調とした装丁、また帯の煽り文句や目次の言葉遣いを見て、長期さんのイメージと明らかに乖離していることから若干の違和感があり些か不安を覚えました。
長期さんがこのようなテイストを自ら選ぶとは考えにくいですから、出版社の良いようにされていて損をしているんじゃないかと心配になりました。タイトルと序章だけを読んで煽り文句に釣られた投資手法の異なる(悪意ある)人によって、そこだけを切り取った誤解や批判を浴びやすいだろうとも思いました。
しかし、この心配は杞憂に終わりました。私の妻は投資初心者ですが、書籍を妻に見せてみて感想を聞いたところ、「なんか読みやすそうだし、私だったら手に取って読んでみたくなるなぁ」という感想だったからです。
そこで気付きました。私は長期さんの質実剛健で硬派なスタイル・文体のファンですが、世の中の多くの人は読書家ではなく、活字に慣れておりません。特にあまり投資本を読んできていない投資初学者や、投資にこれまで興味を持ってこなかった一般層は、読みやすそうなライトな雰囲気の本じゃないと手を伸ばさないでしょう。
そこで、なるべくキャッチーな装丁とタイトルにすることで興味を引いてまず一度手に取ってもらう。読み始めさえしてもらえれば、長期さんの地に足がついた骨太な解説に任せておけばよい。このフットインザドア戦法(?)により、なるべく多くの人に株式投資の価値を周知し、かつ安全な投資手法を流布する。
この外見と中身の大きく異なるハイブリッド戦法こそ、本書の目的を達成するための最善の手法だと気付いたのでした。
末筆となりますが、長期株式投資さん、出版社の皆さん、この度はご出版およびあっという間に重版が決まったという快調な滑り出し、本当におめでとうございます。長期さんのその初心者投資家を救いたいという強い意志は、きっと本書を通じて後の世代に受け継がれると思います。(私も微力ながら受け継がせていただきます)
また、この度は更新が長らく止まった影響力皆無のブロガーにも関わらずご献本いただきありがとうございました。おそらく一生に一度の貴重な機会だと思います。なお、ご献本をいただかなくても予約購入する予定でしたし、本記事と同じ内容のレビューを書いていることと思います。
不朽の名著となる可能性もある本書を、読者の皆様は是非手に取って読んでみてください。第八章の「最強の投資メンタルを作る投資賢者の名言」を読むだけでも本書の価値は十分にあります。私も暴落相場が来るたびに繰り返し読みたいと思います。初心者も上級者も、きっと学べることがたくさんあるはずですよ!
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