投資家の方であれば、複利の効果については耳にタコができるほど見聞きしてきたかと思います。複利とはある一定期間ごとに同率の掛け算(例えば年利5%なら一年毎に1.05倍)をすることであり、一説によるとあのアインシュタインが「人類最大の発明は複利である」と言ったとか言わなかったとか言われてます。(どっち?)
この複利を数学用語に置き換えると指数関数となるのですが、実は身近にも指数関数的な事象が潜んでおります。複利の圧倒的破壊力に精通した投資家であれば、指数関数的変化の圧倒的武力がおわかりいただけるでしょう。
本記事では、身近に存在する指数関数的変化の事象と、それに注目(注力)すべき理由について説明します。
指数関数的に変化する事象に注目すべき理由
世の中には、何でもかんでも自分でできるようになるべきだとさとし、大量の時間を投入することによりリソースを分散させながらもやたらめったら努力と根性論を推すような風潮があります。長時間労働問題が生じる原因の一つですね。しかし、そのようなやり方ではいわゆる器用貧乏に陥るのが必然です。
経営戦略でも、ひと昔前に流行したコングロマリット企業を中心とした多角化経営という手法がありますが、その行きつく先は市場平均のリターンをアンダーパフォームすることとなりがちです。何故なら、各分野の専門企業は持てるリソースを全投入しながら専門分野のシェアを獲得すべく凌ぎを削っており、そこに生半可なリソースの投入で参入してもそれらの尖った企業には勝てないからです。そして、これらの高度に専業化した企業の集合体が市場平均なのですから、多角化経営を選択したコングロマリット企業は、ある業界が低迷することにより経営が致命的に傾くというリスクは回避できても、大きなリターンを得ることができないのは必然です。
その結果、企業戦略は「選択と集中」という風潮にあります。これは、個人のキャリア戦略でも言えることです。
特に大企業では、総合職の人員に対して、エキスパートではなくジェネラリストになるように教育を行ってきました。広く浅く何でもできる人材の養成です。
この教育により、社内のどの部署にいってもそれなりの成果を出せて、上手にプロジェクトを管理して回していけるような社員が量産されますが、その個人が尖った技術・サービスの開発をできるかというとそうではありません。年功序列で終身雇用の時代はそれでよかったのですが、それらが崩壊した現在ではこの方針は組織よりも個人にとって大きなリスクがあります。
新卒からそのような社内ジェネラリスト教育を受けて中堅にまで達したころに、転職の必要性に迫られて自分の市場価値について考えを巡らせると、社内で通用するスキルしか身についていない自分に気づくことになります。尖った技術も無ければ実績もない中堅を欲しがる企業は多くありません。何故なら、これらの企業が中堅に求めるのはポテンシャルではなく即戦力だからです。
というわけで、リンダ・グラットンの『ワークシフト』を引用するまでもなく、フリーランスを中心とした個の時代が迫りくる現在、個人のキャリア戦略は「選択と集中」により尖ったスキルを身に着けることにあります。ではどのようなことを選択すべきかというと、投入したリソースに対して指数関数的に向上するような分野となるのです。
これが、リソースに対して指数関数的に向上する事象に注目すべき理由です。
世に潜む指数関数的変化の事象
それでは、指数関数的変化が起こる事象について見ていきましょう
学力・語学・スキル
以下に示す学習曲線というものをご存知でしょうか?
学習曲線とは、新しいものを学ぶ際に、投入した労力に対する習熟度を示したものです。この図を一見してわかる通り、新しいことに取り組み始めた場合、最初の一定期間は頑張って努力しても習熟率が遅々として上がりません。
しかし、最初の辛い時期を超えると、断片的知識であった点と点が線で結ばれ始め、今までの苦労は何だったのかと思うほど一気に急成長を遂げます。ここまでがエクスポネンシャルな推移です。
やがてプラトーと呼ばれる停滞期に入るまでの学習推移は、多くの方は体験済みだと思います。しかし、ここで重要なのは、学習曲線は連続的に連なるということです。停滞期を超えたらまた指数関数的な上昇推移が待っており、やがて停滞期を迎えるという繰り返しなのです。
多くの人は、最初の辛い時期に努力することをやめてしまいます。たとえそこを超えても、第二第三の障壁が待ち受けており、障壁を超えれば超えるほどライバルは減っていきます。
プロレベルになるにはそれ相応の才能も必要でしょうが、そこまでの水準を求めないのであれば、愚直に努力し続ければ1万時間の法則が発動し、トップアマクラスにはなれるのでしょう。
ものによっては指数関数的推移とは行きませんが、この学習曲線単体はシグモイド関数と呼ばれる指数関数を含む関数と酷似しているので指数関数的推移とはいえます。特に、助走区間が長いことと、それを超えると飛躍的に成長するという部分は、指数関数の特徴を大きく表しており、このことこそが私が本記事で強調したい部分です。
お勧めの対象は、語学とプログラミングです。高度な技能を持っていても語学力が無いと国際舞台では通用しませんが、逆に言うと語学力さえあれば大した技能は無くても何故か優秀な人材扱いされるのが日本の大企業です(全部がそうだとは言いませんが)。私も辛酸を舐め続けており、強く実感していることです。
プログラミングはAI開発スキルが特におすすめです。今後、どう考えてもAI社会になっていくでしょう。そのような社会では、機械にできる仕事は意思決定も含めてほとんどが機械に代替されます。私も深層学習や強化学習プログラムを趣味で作ったりして学んでいるのでよくわかりますが、これは時間の問題です。
そうなった世界線では価値ある人材として認められるのは、AIプログラミングスキルを持った人材です。これとてAIに置き換えられうるのですが(すでにAutoMLによりそういう兆候はあります)、それまでには他の職種に比べて多少の時間的猶予があると考えてます。
今後直近10年間ぐらいのフェーズで言えばかなり厚遇される分野と予想します。
筋肉
投資家にやたら多いのがトレイニーです。
投資の肝は複利の力を甘受し続けるべく市場に居続けることですから、忍耐力が必要となります。また、目先の利益や損失に捕らわれない長期的な視野を持ち、適切な行動に落とし込むメタ認知機能も必要です。
と考えると、投資家に筋骨隆々な人々が多いことは必然ですね。何故なら、筋肉は一朝一夕にはつかず、ボディメイキングには栄養バランスにも配慮しつつ必要であればカロリー制限も行い続けるという長期的な意志力(ウィルパワー)が必要であるからです。
筋トレを始めても三日坊主では何も変わらず、三か月でようやく見た目でわかる効果が出始めると言われます。先月よりも1%強化するという愚直な努力を年単位で続けていった先に、ロニー・コールマンが待っているのかもしれません。(学習曲線同様やがてサチるのでステロイドが無いと無理ですが)
健康(依存症含む)
次にあげるのは、健康です。
10代や20代の頃には多少の不摂生をしても健康面では特に問題なく生活できます。
しかし、不摂生による心身へのダメージは徐々に蓄積されていき、30代以降では健康測定の結果に見えるようになっていきます。そのまま不摂生や暴飲暴食を重ねると、成人病から始まり睡眠障害、高血圧、高コレステロール値、糖尿病、肝障害、心臓病といった具合に体中に問題を抱えることになります。
これは、昨日よりも○%ダメージを与えるということを積み重ねていった結果です。ダメージを負った細胞は、細胞分裂によりそのダメージ細胞を増殖させ、倍々ゲームで増えていきます。本来はこの悪い細胞は負のフィードバック機能が搭載された人間の免疫システムにより除去されますが、それでも許容値を超えたらやがて暴走してしまいます。
近い将来に実現される技術だとは思いますが、現在の科学力では老化を食い止めることは出来ないため、生きていればテロメアも擦り切れていき、対内外からダメージが蓄積していくのは仕方のないことです。とはいえ、健康に配慮した生活習慣を選択し、週3回程度一回30分の有酸素運動を行うなど、科学研究で証明されている健康効果の高いメソッドを生活に取り入れることにより、この下落率を抑えることができ、健康寿命を延ばすことができるのでしょう。
また、依存性を持つ嗜好品は、摂取すればするほど依存症が強くなります。そして、依存すればするほど消費量が増していき、更に依存度が高まります。特に、お酒を飲む人は必ず週に一度は休肝日を設けて、深酒はせずほどほどにしましょう。(自戒)
テクノロジー(主にIT分野)
ITのハードウェアに関する分野にはムーアの法則と呼ばれるものがあります。
これは、インテルの創業者の一人であるゴードン・ムーアが1965年に提唱した経験則であり、その内容は「単位面積当たりに配置されるトランジスタ数は1.5年(後に2年に修正)で2倍になる」というものです。これをざっくり説明すると、コンピュータの性能は1.5年から2年で二倍に成長するという法則です。
さて、昨今ではムーアの法則は死んだと言われて久しいですが、実際はというと50年もの長きに渡って現在もへたりつつも指数関数的な右肩上がりを堅持しております。特に、CPUでは厳しくてもGPUや、果ては量子コンピューティングなどのパラダイムシフトにより、PCの演算性能は今後も指数関数的推移を辿ると考えられます。現に、CPUであってもベルギーの国立研究所であるimecは、現在の7nmの半導体プロセス密度(要は電子回路の細かさ)から更に二世代先の3nmの基礎研究開発に成功したという発表が最近ありましたし、この研究所は14Å(1.4nm)という更に細かい原子レベルの領域まで行けるというロードマップを公開しております。
我々が手のひらで使っているスマホは、30年前であれば数千億円出さないと作れないようなスパコンレベルの演算速度を実現しております。超高性能カメラやその他アプリが再現できることまで加味したら、お金では表せないレベルです。このような抜本的な技術転換どころか社会転換を引き起こし続けてきた歴史を示しているのがムーアの法則です。これが今後も続くと考えれば、注目していくべき価値があるということがおわかりいただけるでしょう。
なお、私が崇拝する稀代の未来学者・発明家にレイ・カーツワイルという米国人がおります。彼は現在、GoogleのAI開発部門を率いており、書籍「シンギュラリティは近い」にてシンギュラリティという概念を世に広めた人物なのですが、彼は「ムーアの法則のような指数関数的推移はその他あらゆる科学技術の分野に存在する」と主張し、それを「収穫加速の法則」と名付けました。
彼の主張では、科学技術そのものが倍々ゲームで進歩しているとのことです。その推進力は半導体素子(つまりムーアの法則)とAI技術です。そして、この進歩速度が維持されれば、2045年に人間の知能がコンピュータの人工知能に完全に抜き去られて、圧倒的速度で科学技術が進歩していき、何が起こるか予想できないような時が来ると主張しました。これがシンギュラリティというフェノメナ(フェノメナ)です。
私は近い将来にシンギュラリティが来ると考えるシンギュラリタリアンですが、実際にそのようなことが起こるかどうかはわかりません。とはいえ、最先端科学技術を定点観測していればわかることですが、多くの技術分野が指数関数的推移と思えるような圧倒的速度で進歩しているのは事実です。
このようなテクノロジーに注目し、もし興味がある分野があれば開発者として飛び込んでみることは、未来に多大なリターンを与えてくれることでしょう。
資産運用
ご存知、アインシュタインの金言「人類最大の発明は複利である」のとおり、資産運用における複利の破壊力は物凄いものがあります。
いつも書いていることですが、米国株式市場は配当再投資条件では200年以上に渡ってインフレ率調整後の実質年間リターンが平均が6.7%でした。(大事なので何回でも書きます)
出典:AAII Journal
S&P500などに連動する米国株式インデックスを購入して配当金(分配金)を再投資し続ければ、経験則としては約11年で平均二倍に膨れ上がります。長期間、良き時も悪しき時もひたすら愚直に再投資を続ける必要がありますが、それが出来れば平均で見れば指数関数的に資産規模は増えていくということですね。
まとめ
投資家の方がご存知の複利的効果は、世を見渡せば色んな分野に顔を出してます。
複利のように延々と指数関数的進歩が続くものは多くはないですが、学習曲線のように最初は進捗が芳しくないけれどもやがて指数関数的速度で上昇気流に乗るというようなものは沢山あります。
人間である以上、時間と肉体という束縛条件があるためリソースは限られておりますので、テコの原理とも呼べる指数関数のバカヂカラが存在する領域で勝負していくのが賢明だと思います。
指数関数的進歩を遂げるために必要なのは習慣化のチカラに身をゆだねることなのですが、この習慣化の手法については科学的に研究されており、ある程度有用な方法がわかってきております。(長くなったので別記事にまとめる予定です)
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資産形成で生ける偉人と言えばこの人、トマ・ピケティ。資本主義における格差の必然性を膨大なデータにより明らかにした功績はあまりにも大きいです。
コメント
数日前にこのブログを発見し、楽しく読ませていただいています。
テクノロジー(主にIT分野)の第六段落二行目に書かれている1945年の部分は正しくは2045年ではないかと思うのですが、いかがでしょうか
ご指摘ありがとうございます。
2045年ですね!修正しました。