宝の地図が示すとおり、過去200年における米国株式の実質トータルリターンは6.7%でした。
当ブログでは、米国株式市場そのものと言っても過言ではないS&P500インデックスへの投資は、積立投資を行う上で非常に有効な選択肢であることを説明してきました。
S&P500インデックスへの投資方法は、米国のETFをはじめ、国内のETFや投資信託と、多数存在しています。
最近では、eMAXIS SlimのETF版ともいえる「MAXIS 米国株式(S&P500)上場投信:2558」も上場しましたね。
いざS&P500に投資すると決断しても、どれを買うのが最も良い選択肢といえるのでしょうか?
結論は、
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
【一般積立でサクソバンク証券を使う場合】
米国ETF(VOOまたはIVV)
※現状は配当金が1株分以上になるよう調整が必要
【一般積立でサクソバンク証券を使わない場合】
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
です。
本記事では、この理由を説明します。
お急ぎの方は、コチラから参照ください。
なお、本検討では、S&P500への投資に絞り、全米株式への投資等は除外しています。
銘柄選定の観点
まず、銘柄を比較する際の観点を明確にしておきます。
投資の前提として、長期積立を想定します。
実質コスト
S&P500インデックス銘柄を比較するうえで重要な要素として、最初に挙げられるのは信託報酬ですが、これだけを比較しても正しい結果は得られません。
これは「その他手数料」が存在しているためです。
このため、コストについては、ETFであれば信託報酬のほかに「年間上場手数料」等を考慮する必要があり、また投資信託であれば隠れコストも含めた運用報告書における総経費率で考える必要があります。
二重課税と自動再投資
外国株式を取引し、配当金等を受け取る際、現地で課税されることに加え、日本でも課税されます。
海外株式を取り扱うETF(上場投資信託)や、投資信託において配当金を受け取る場合も例外ではありません。
例えば、米国の場合、現地で10%課税され、日本で20%課税されるため、トータルで28%課税されます。
これについて、外国税額控除制度により、いくらか取り戻すことができますが、この金額は所得額により大きく異なることに加え、全額戻ってくるというわけではありません。
(NISA口座は国内非課税につき二重課税とならないため外国税額控除の対象外です)
このため、配当再投資を行うことで最大のメリットを享受できる長期積立投資においては、「現地課税分のみで配当金を再投資できるか」が利益最大化の大きなファクタとなります。
したがって、実質のコストを考える際には、再投資時の二重課税についても考慮する必要があります。
なお、二重課税に係る外国税額控除については、2020年1月より、一部の投資信託やETFにおいて自動で調整される制度が開始されています。
ETFについて、制度の対象となるかどうかは、現状可能性の話に留まっていますが、候補の銘柄はJPXの資料により確認できます。
貸株の金利
国内ETFでは、証券会社に株を貸し出す「貸株サービス」を利用できる場合があります。
国内ETFを保有するのであれば、確定申告がどうしても面倒(貸株金利は雑所得のため)という場合を除き、利用すべきでしょう。
これにより、例えば楽天証券であれば、年利0.1%~最大数%を追加で得ることができます。
したがい、銘柄の比較にあたっては、貸株による利回りについても加算して考えます。
株を貸出し中の配当金は「配当金相当額」として振り込まれ、貸株の金利と同様に雑所得として扱われるため、配当控除の対象とならず「貸株しない場合」よりも手取り額が少なくなることがあります。これを回避するには、権利確定日に株式が返却される「株主優待・予想有配優先コース(楽天証券の場合)」を選択する必要があります。
流動性
流動性、すなわち売買のしやすさについては、長期積立を前提としていることから考慮する必要はありません。
ただし、流動性以外が殆ど同じ2つの銘柄があった場合、流動性が良い(出来高が大きい)銘柄を選定するのが無難といえます。
S&P500インデックスに投資する手段一覧
ひとえにS&P500に投資するといっても、選択肢は多岐に渡ります。
まずはどのような投資方法があるのかみていきましょう。
以下の銘柄について概要を紹介します。
- 【米国ETF】バンガード・S&P 500 ETF:VOO
- 【米国ETF】iシェアーズ・コア S&P 500 ETF:IVV
- 【国内ETF】上場インデックスファンド米国株式(S&P500):1547
- 【国内ETF】SPDR S&P500 ETF:1557
- 【国内ETF】iシェアーズ S&P 500 米国株 ETF:1655
- 【国内ETF】MAXIS 米国株式(S&P500)上場投信:2558
- 【投資信託】eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
- 【投資信託】iFree S&P500インデックス
- 【投資信託】SBI・バンガード・S&P500
本項は、こんな種類があるんだ、くらいのカタログですので、飛ばしていただいても構いません。
比較検討は次節にて行います。
なお、全てS&P500種指数のパフォーマンスに連動する投資成果を目指す銘柄となっています。
【米国ETF】バンガード・S&P 500 ETF:VOO
バンガードS&P 500 ETF(Vanguard S&P 500 ETF:VOO)は、Vanguard社が運用する米国籍のETFです。Vangurd社は世界で初めてインデックス投資を可能にした会社として知られています。
VOOの基本データは以下のとおりです。
経費率 | 0.03% |
配当利回り(2020/3/9現在) | 1.5% |
楽天証券の貸株金利(2020/3/9現在) | 対象外 |
経費率が0.03%と格安です。さすがですね。
配当利回りはS&P500に依存するため、後述のETF銘柄ではすべて同一とし、省略します。
貸株制度については、国内株式ではないため、利用できません。
【米国ETF】iシェアーズ・コア S&P 500 ETF:IVV
iシェアーズ・コアS&P500 ETF(iShares Core S&P 500 ETF:IVV)は、ETFで世界最大のシェアを持つブラックロック社が提供する米国籍のETFです。
IVVの基本データは以下のとおりです。
経費率 | 0.04% |
楽天証券の貸株金利(2020/3/9現在) | 対象外 |
経費率は0.04%であり、VOOに若干劣りますが、十分過ぎるほど低水準といえるでしょう。
貸株はVOOと同様に対象外です。
なお、本記事では考慮しませんが、流動性(出来高)に関しては、VOOよりIVVの方が2倍以上高いです。
、
【国内ETF】上場インデックスファンド米国株式(S&P500):1547
上場インデックスファンド米国株式(S&P500):1547は、日興アセットマネジメントが提供する国内のETFです。
株価が円換算したS&P500指数の変動率に一致することを目指したETFです。
1547の基本データは以下のとおりです。
信託報酬(税込) | 0.165% |
その他手数料 | 0.1% |
楽天証券の貸株金利(2020/3/9現在) | 0.1% |
経費率はVOOやIVVをみたあとだとやはり高く感じますね。信託報酬だけでも経費率を大きく上回っています。
その他手数料が後述する他の国内ETFより2倍程度高くなってます。
楽天証券で貸株制度の利用が可能となっています。
【国内ETF】SPDR S&P500 ETF:1557
SPDR S&P500:1557は、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ・トラスト・カンパニーが提供する国内ETF(外国籍)です。
1557の基本データは以下のとおりです。
経費率(税込) | 0.104% |
楽天証券の貸株金利(2020/3/9現在) | 対象外 |
1557は、国内で買えるS&P500に連動したETFのうち、最も総経費率が安いです。
国内で購入可能ですが、外国籍のETFのため、二重課税の自動調整対象外であり、貸株もできないのが難点です。
【国内ETF】iシェアーズ S&P 500 米国株 ETF:1655
iシェアーズ S&P 500 米国株 ETF:1655は、ブラックロック社の日本法人が提供する国内ETFです。
1655の基本データは以下のとおりです。
信託報酬(税込) | 0.165% |
その他手数料 | 0.0413% |
楽天証券の貸株金利(2020/3/9現在) | 0.1% |
1547と信託報酬は同等ですが、手数料の面で有利です。
以前は楽天証券の貸株金利が0.75%と破格でしたが、現在は0.1%まで引き下げられています。
流動性が高く、短期取引する方に人気の銘柄です。
また、二重課税の自動調整制度の対象候補となっています。
【国内ETF】MAXIS 米国株式(S&P500)上場投信:2558
MAXIS 米国株式(S&P500)上場投信:2558は、三菱UFJ国際投信が提供する国内ETFです。
三菱UFJ国際投信といえば、投資信託のeMAXIS Slimシリーズが有名ですが、2020年1月9日に国内ETF版も上場しました。
2558の基本データは以下のとおりです。
信託報酬(税込) | 0.0858% |
その他手数料 | 0.0583% |
楽天証券の貸株金利(2020/3/9現在) | 0.2% |
信託報酬が0.078%であり、国内ETFでは破格です。
ただし、その他手数料が割高のため、総経費率では1557より高くなります。
しかしながら、現在は楽天証券の貸株金利が0.2%(近々0.1%に引き下げられるのでしょうけど)であることを考慮すると、1557どころか、投資信託のeMAXIS Slimと張り合えます。
この比較については後述します。
【投資信託】eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は、三菱UFJ国際投信が提供する投資信託です。
積立NISAでは本投資信託だけ積み立てていれば良いと言っても過言ではない程のパフォーマンスを誇ります。
本投資信託のデータは以下のとおりです。
信託報酬が圧倒的に安い本投資信託ですが、実績ベースの総経費率を確認する必要があります。
総経費率 | 0.23% |
【投資信託】iFree S&P500インデックス
iFree S&P500インデックスは、大和投資信託が提供する投資信託です。
コストパフォーマンスの高いeMAXIS Slimシリーズの出現により、人気が落ちています。
本投資信託のデータは以下のとおりです。
総経費率 | 0.295% |
【投資信託】SBI・バンガード・S&P500
SBI・バンガード・S&P500は、SBI証券が提供する投資信託です。
手数料競争でも常に攻め続けてきたSBI証券だけあって、信託報酬がeMAXIS Slimを下回ります。
しかしながら、現状まだ総経費率が不明であるため、今回の検討では除外します。
【例外】その他のS&P500関連銘柄
これらの他に、S&P500の高配当株に投資するSPYD、レバレッジ3倍と同じ値動きを目指すSPXL、2倍のiFreeレバレッジS&P500等がありますが、本記事では触れません。
最も有利な手段は?
配当再投資にかかるコスト整理
さて、ここからが本題です。
S&P500インデックス連動銘柄に積立投資するにあたっては、複利の恩恵を最大限に享受すべく、配当を再投資する必要があります。
このため、最も優れた銘柄を検討するには、総経費率に貸株や税制等その他の要素を考慮し、総合的に再投資コストを算出して比較する必要があります。
それでは、先程整理したデータから、実際の再投資コストを計算して再度整理してみましょう。
再投資コストは以下のとおり計算できます。
なお、ETFの配当は2020年3月12日現在のデータを参考に1.5%とし、貸株収益にかかる税額(雑所得)は所得税5%、住民税10%の計15%とします。
銘柄 | 信託報酬(税込) | 総経費率 | 配当にかかる税金 | 税引き後の貸株金利 | 配当再投資コスト |
VOO | 0.03% | 0.03% | 0.42%(=1.5×0.28) | – | 0.45% |
VOO(DRIP利用) | 0.03% | 0.03% | 0.15%(=1.5*0.1) | – | 0.18% |
IVV | 0.04% | 0.04% | 0.42% | – | 0.46% |
IVV(DRIP利用) | 0.04% | 0.04% | 0.15% | – | 0.19% |
1547(上場インデックス) | 0.165% | 0.265% | 0.42% | 0.085%(=0.1*0.85) | 0.6% |
1557(SPDR) | 0.104% | 0.104% | 0.42% | – | 0.524% |
1655(ISS&P500) | 0.165% | 0.2063% | 0.42% | 0.085% | 0.5413% |
2558(MAXIS):貸株金利0.2% | 0.0858% | 0.1441% | 0.42% | 0.17%(=0.2*0.85) | 0.3941% |
2558(MAXIS):貸株金利0.1% | 0.0858% | 0.1441% | 0.42% | 0.085% | 0.4791% |
eMAXIS Slim米国株式(S&P500) | 0.0968% | 0.23% | 0.15% | – | 0.38% |
iFree S&P500インデックス | 0.2475% | 0.295% | 0.15% | – | 0.445% |
総経費率の低さと、二重課税を課されない条件であるVOO,IVVでDRIPを利用した場合のコストが圧倒的に低いです。
ここで、DRIPとは配当金再投資サービスであり、自動で株式の配当を再投資してくれます。サクソバンク証券で利用可能です。
ただし、現状は配当金が1株以上でないと適用不可(1株未満の場合は配当金を振込)のため、VOOが1株3万円だとすると、サクソバンク証券でDRIP対象となる条件は222万円(=3/0.015/0.9)以上もっている場合となります。
興味のある方は以下を参照ください。
DRIPを考慮しない場合は、やはりeMAIXS Slim 米国株式が強いですね。
新しいETFの2558も健闘していますが、貸株金利0.2%が前提となっており、いずれ0.1%に引き下げられる可能性があり、この0.1%についても恒久的に継続するか不透明なところがありますので、投資信託には及ばないと考えております。
これらMAXISシリーズについては、積立投資する場合はメリットの多い投資信託を、スポット買いする場合は即応性のあるETFを購入するのが良いでしょう。
なお、今回二重課税の調整について、年間投資額や所得により大きく異なることから考慮していないため、ETFは若干不利な結果がでていますが、上述の特性は変わらないかと思います。
配当再投資コストの差はどの程度影響するのか
さて、整理した配当再投資コストを基に、投資シミュレーションをしてみましょう。
ここでは、以下のとおり条件を仮定します。
- 年間利回り5%
- 毎月10万円を20年間投資
- 取引手数料は証券会社に依存するため考慮しない
- DRIPについては1株ルールが撤廃された場合を想定する
また、コストの相違による投資結果の差を示すため、最も低コストであるVOO(DRIP)、最もコストが高い1547、中間値であるeMAXIS Slimの3銘柄を比較します。
20年後の総資産額は、
eMAXIS Slim :4108.4万円
1547 :4009.3万円
となりました。
同じS&P500インデックス連動銘柄への投資であっても、本条件において200万円に近い差が出ています。
実質コストが安いほど良いことは言うまでもありませんが、ここで重要なのは、見かけ上のコスト(信託報酬)と、実質のコストの差が0.4%を超えることがあるということにも留意する必要があるということです。
新規ETFや投資信託においては、信託報酬がこれだけ安いという売り出し方が多いかと思いますが、実際に何を選択すべきかは実質コストを確認しないと損する可能性があります。
つみたてNISA枠での最適解
これまでの検討をもとに、まずはつみたてNISA枠でS&P500インデックスに投資する場合の最適解を示します。
もはや言うまでもありませんが、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」を推奨します。
ライバルがいるとすれば、SBI・バンガード・S&P500ですが、実質コストがどうなるかはまだわかりません。
ちなみに、つみたてNISAでもETFの「上場インデックスファンド米国株式(S&P500):1547」に投資可能です。
しかしながら、国内非課税となっても、NISAでは貸株サービスが利用できないため、結果として実質コストはeMAXIS Slimを上回ります。
このため、あえてETFを選択するメリットはありません。
今後「MAXIS 米国株式(S&P500)上場投信:2558」がつみたてNISA枠で購入可能になれば、検討の余地があるかもしれません。
一般積立としての最適解
では、つみたてNISAの枠外で投資する場合はどうでしょうか?
これは、サクソバンク証券を利用するか否かで別れます。
サクソバンク証券でDRIPを適用する場合は、「米国ETF(VOOかIVV)」が良いでしょう。
しかし、サクソバンク証券は現状一般口座のみであり、加えてDRIP適用には1株以上の配当金が必要である等、少し面倒なところがあります。
サクソバンク証券を利用しない場合は、やはり「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」がおすすめです。
ただし、「MAXIS 米国株式(S&P500)上場投信:2558」の二重課税の自動調整適用後の実質コストによってはこちらも選択肢に入ります。
具体的な計算については、今後ケーススタディ形式で示せればと考えています。
なお、サクソバンク証券が特定口座に対応(2020年中とのこと)した場合は、圧倒的に米国ETFが有利ですので、選択の余地はなくなります。
まとめ
以上、S&P500インデックスへの投資方法でおすすめの銘柄でした。
結論を再掲します。
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
【一般積立でサクソバンク証券を使う場合】
米国ETF(VOOまたはIVV)
※現状は配当金が1株分以上になるよう調整が必要
【一般積立でサクソバンク証券を使わない場合】
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
雑な仮定もあり、必ずしも正しい比較といえない部分もありますが、重要なのは信託報酬ではなく実質コストを見極める必要があるということです。
無駄なコストを払わないよう、隠れたコストもしっかり確認しましょう。
コメント
為替コストは考慮してますか?
コメントありがとうございます。
為替コストについては、数銭のオーダーであり有意な影響はないため考慮しておりません。
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DRIPですが、分配金をもらう代わりに株をもらうのだとすると、その株をもらった分は利益を得たものとして確定申告する必要があり、どこまでメリットと言えるのかが気になっております。この点についてお考えがあればお聞かせいただきたいです。