株式投資によるリターンには株価が上昇することによるキャピタルゲインと配当(分配金)によるインカムゲインがあります。
どちらの方が大きいのでしょうか?
インデックス投資を行っている人間からすると、圧倒的にキャピタルゲインの方が大きいというイメージがあります。
一方で、高配当株投資を行っている人を中心に、インカムゲインが利益の源水(大部分)であるという意見があります。
そして、ネット上でのこの辺の議論には恐らく書いた本人も気づいていない間違った解釈が散見されます。
それではキャピタルVSインカムの決着をつけるべく、米国株式市場を対象に見ていきながら実態を炙り出していきましょう!
NYダウの過去100年のリターンと間違った解釈
かの有名なシーゲル先生の名著「株式投資の未来」の中にこんな言葉があります。
1871年から2003年にかけて、インフレ調整ベースで、株式の累積リターンの97%は配当再投資が生み出してきた。キャピタルゲイン(値上がり益)が生み出した部分は3%に過ぎない。
ジェレミー・シーゲル『株式投資の未来』
どういうことでしょうか?
過去100年でNYダウは以下のような株価推移を遂げました。
意外と実質株価上昇率は低いですね。
一方で、本ブログでは度々登場しますが、過去200年の米国株式市場の配当再投資時の実質リターン(インフレ調整後)は6.7%です。
つまり、配当によるリターンは4.3%(実質リターン6.7%-実質株価上昇率2.3%)となります!
これは、実質株価上昇率の二倍に近い値ですね!この配当を再投資し続けることによる株式累積リターンは全利益の97%を占めるのです!ガッテン!!
・・・
という説明に納得されましたでしょうか?
有名なブログでもこのような説明をしているものがいくつかありますが、これは間違いです。
さて、どこが間違いかわかりますか?
NYダウのキャピタルゲインとインカムゲインの正しい比較
↑はい、ここが間違いです。
正確に言うと、誤解を生む表現といえます。
では、正解は?というと、以下のようになります。
つまり、
名目同士を比べると、以上のようになります。
何が間違いだったかというと、株価上昇率の方だけインフレ率を引いていた実質リターンでの評価であるのに対して、配当利回りはインフレ率を引かずに名目リターンとして評価していたことです。
株価上昇率だけがインフレ率3.1%という大きなハンデキャップを負っていたということですね。
これは、逆にしてみるとわかりやすいかもしれません。
例えば、以下のように配当リターンの方にインフレ率の足枷を課すと真逆の結果となります。
株価の上昇率5.5%に対して配当リターンは1.2%となりました。はい、ただの数字遊びですね。
なお、シーゲル教授の言う配当が97%の利益を生み出すというのは本当ですが、これは配当を再投資するかしないかを比較した場合です。
そりゃ、配当による約4%を130年も再投資し続けたら1.04の130乗と指数関数的に大きくなるのは当然です。
キャピタルゲインとインカムゲインとをしっかりと比較するのであれば、配当再投資と株価上昇率再投資とを比較しないといけません。
つまり、毎年株価上昇率分を利確して配当を再投資する場合と、何もしない場合(株価上昇率分を再投資していると同義)とを比べないといけません。
ちょっと理屈っぽくなりすぎてきたのでこの辺で辞めますが、言いたいことは、騙そうと思えば如何様にも数字遊びができるため、安易な言葉に流されずに考えながらロジックを紐解く必要があるということです。
比較結果を見る場合は、何と何を比較していてそれはフェアな(同一階層の)比較であるか?など、批判的思考(クリティカルシンキング)が重要ですね!統計結果については特に注意が必要ですが、それはいつか別の機会に書きたいと思います。
最初の間違いの回答を疑問に思わずなんとなく信じてしまった人は、比較対象を明確化することを今後意識していきましょう。
まとめ
配当こそが正義!!という声をよく聞きますが、米国株式市場の歴史をみると全くそんなことは無いということがわかります。
結論としては、NYダウの100年の歴史では、名目リターン同士を比較すると以下となりました。
ただし、配当再投資の威力が絶大なのは間違いありません。シーゲル先生もそれを強調したくて、配当再投資の有無を比較して長期的には配当再投資が97%の利益を生み出すと言っているのですね。
なお、シーゲル氏の「株式投資の未来」は多数のデータに裏打ちされた研究結果が見事にまとめられた名著中の名著ですので、これを機にしっかりと理論武装しようという人には特にうってつけです。
インデックス投資の圧倒的強さを世に知らしめた「株式投資」もおすすめです。
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