最近、電力といえば関西電力経営陣の金品受領が大きな話題となっています。
それに伴い、関西電力の株価は一時200円程度下落しました。
多くの電力株は3.11の震災から端を発した原発事故以降、軒並み株価低迷中であり、関西電力に至っては今回の不祥事でさらに下落中ですが、実は電力株は今お買い得ではないかと考えています。
本記事では、この理由を紹介します。
3.11以前と現在で電力会社はどう変わったか?
電力株は、一部を除き現在株価が低迷しています。
理由としては、忘れもしない福島第一原子力発電所事故の影響が真っ先に思い浮かびますが、それだけなのでしょうか?
まずは電力株の現在の状況をみてみましょう。
3.11以前と現在の株価比較
3.11および原発事故の直前である2011年2月の電力株価と、2019年10月25日の株価を以下のとおり比較しました。
銘柄 | 2011年2月 | 2019年10月 | 値下がり率 | |
株価(円) | 株価(円) | |||
9501 | 東京電力HD | 2,114 | 529 | -75% |
9502 | 中部電力 | 2,157 | 1,635 | -24% |
9503 | 関西電力 | 2,146 | 1,265 | -41% |
9504 | 中国電力 | 1,752 | 1,447 | -17% |
9505 | 北陸電力 | 2,060 | 789 | -62% |
9506 | 東北電力 | 1,903 | 1,118 | -41% |
9507 | 四国電力 | 2,473 | 1,075 | -57% |
9508 | 九州電力 | 1,898 | 1,093 | -42% |
9509 | 北海道電力 | 1,754 | 597 | -66% |
9511 | 沖縄電力 | 1,319 | 1,818 | 38% |
9513 | Jパワー | 2,581 | 2,657 | 3% |
東京電力をはじめ、原子力発電所を有する電力会社は軒並み暴落し、その後も停滞を続けています。
原子力規制員会による安全審査に合格し、再稼働するまでは膨大な維持費がかかるだけでなく、火力発電の追加燃料調達費用等がかかるため、原発は完全に穀潰し状態です。
そして、安全審査も長期化しており、国内で再稼働を申請しているすべての原発が再稼働するのは何年後になるか見当もつきません。
仮に再稼働を諦め、廃炉にするとしても多額の費用がかかるため、先行き不透明な現時点で株価が下がっているのはごく自然といえます。
電力業界自体は安定している
一方で、2011年2月時点と現在の比較でマイナスになっていない電力会社も存在します。
それは沖縄電力とJパワーです。
沖縄電力は原発無し、Jパワーは建設中の原発があるため立場は違いますが、これらの会社は元々原発で発電しておらず、原発強制停止時にも被害が無い、あるいは少なくて済んだと考えられます。
このことが、現在電力会社の株価が低迷している理由は「原発周りの影響」が支配的であり、電力業界のポテンシャル自体は原発事故前と変わらず安定的であることを証明しています。
ZEC制度による原子力発電の復興
2019年3月に朝日新聞デジタルは、経産省が原発を運用する電力会社に対する補助制度を2020年末までに創設することを検討しているとの記事をリリースしました。
参考記事:原発支援へ補助制度案 経産省、2020年度創設めざす(朝日新聞デジタル)
この制度は米国ニューヨーク州のNuclear Zero Emission Credits (ZEC)をモデルとした制度であり、原発発電分のコストの一部を需要家が負担するというもので、温室効果ガスの排出抑制のため、既設の原発を維持することを目的としています。
具体的には、原発により発電した電気について、電気料金を上乗せすることが許容されるというもので、米国のモデル制度と同等の上乗せ額とした場合、その額は約¥1.9/kWhとなります。
例えば、関西電力の場合、この制度を3.11以前における原発発電量に適用すると、470億kWh × 1.9円/kWh=約890億円もの追加収入が得られることになります。
これは、2019年の関西電力の単独営業利益の67%相当です。
原発フル稼働という仮想条件ではありますが、強烈なインパクトがある制度であることは間違いありません。
なお、ZEC制度の概要について知りたい方には、以下の記事がおすすめです。
ZEC制度導入による電力株の動き
さて、この強烈なインパクトが予想されるZEC制度が導入されると電力株はどうなるのでしょうか。
かつての水準に戻るのか
ZEC制度は原発の新設というよりも、既設の原発を大事にしようという意味合いが強いため、完全な原発推進策ではないものの、世界のCO2削減の流れを受け、国は原発推進せざるを得ないと判断していると考えられます。
国が原発推進側に明確に舵を切るということであれば、安全審査の効率化も図られ、各電力の原発再稼働までの道のりは短縮されるのではないでしょうか。
これにより、各社の原発が再稼働すれば、先に述べた「株価低迷中の電力」が抱える悩みは解消され、沖縄電力やJパワーのように3.11以前とかわらない水準に戻ることも十分に期待できると考えます。
さらに、ZEC制度そのものによる追加収入も得られます。
ZEC制度は、原発依存電力の株価押上げの強い力になりそうですね。
国内で原発比率No.1は関西電力
段々、株価低迷中の電力株がお買い得な気がしてきました。
そのなかで、最も有望な会社はどこでしょうか。
著者は関西電力ではないかと思っています。
理由は、関西電力は全電力の中で最も原発比率が高いことに加え、冒頭で述べたとおり金品受領問題により至近の水準からも大きく株価を下げているためです。
前者はZEC制度の恩恵を最も受けるということですし、後者はおそらく会社としての収益に大きく影響するものではありません。
投資する上での懸案事項
ただし、電力会社に投資する上では懸案事項もあります。
ZEC制度の白紙化
これまで、”電力が熱い”と考える理由にZEC制度による再稼働の加速と追加収益を挙げてきました。
そのため、この制度が撤回されるとなれば、前提条件が破綻します。
ZEC制度が撤回される可能性があると考える理由としては、ネットソースが朝日新聞デジタルのみであり、経産省自体はあまり公にしていないこと、太陽光発電の高度化が進んでいること、制度施行には反原発側の猛反対が予想されること等が挙げられます。
例えば、太陽光発電の高度化について考えてみましょう。
かつて、3.11直後に原発の代替は自然エネルギー(特に太陽光)にすればいい等と発言すれば、笑いものでした。
事実、当時の技術ではどうあがいても不可能でしたから。
一方で、近年の技術革新により、太陽光パネルの価格は指数関数的に下がり、太陽光発電の単価は下がり続けています。
参考:Renewable Power Generation Costs in 2017
また、太陽光発電の欠点である天候については、スマートグリッドと蓄電池の進化により解消されることでしょう。電気自動車が流通すれば、それを家庭用蓄電池として兼用する道もあります。
そのため、国としてはアンチが多そうなZEC制度より、太陽光に全力となることも考えられます。
地方自治体との信頼関係回復の難航
原発の稼働は、基本的に国から許可されていれば良く、実は地方自治体の合意を得る必要はありません。
したがい、地方自治体の合意を得るのはあくまで紳士協定に基づくようなものなのです。
とはいえ、社員も発電所周辺の住みますし、周辺住民とうまくやっていく必要があり、結果的に必須条件のようになっています。
そのため、最近であれば関西電力幹部の不祥事がどう響いてくるか、他の電力は大丈夫なのかといった懸念があります。
まとめ
以上、ZEC制度を見据えると電力株が格安と考えられる理由でした。
現段階で情報が少ない制度ではありますが、朝日新聞の報道どおりに制度が施行され、その後原発再稼働が本格化すれば、電力の株価が過去の水準に戻ることも十分考えられるのではないでしょうか。
しかし、懸案事項に述べたとおり、よし、買おう!と決断するには勇気がいりますね。
電力株に興味をもたれた方は、本制度の今後の動向を注視することをおすすめします。
※投資する場合はあくまで自己責任ですので、しっかり分析し、納得した上で行いましょう。
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