2020年3月、コロナショックで株式市場が焼き尽くされる中、『FIRE 最強の早期リタイア術―最速でお金から自由になれる究極メソッド』と題するFIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的独立と早期リタイア)に関する本が出版されました。
2019年末にも『FIRE 最速で経済的自立を実現する方法』という本が発売されたばかりなので、出版界ではFIREブームが徐々に広がり始めている印象です。にしても、タイトルかぶりすぎですけどね。。
ということで、『FIRE 最強の早期リタイア術』を読んでみましたので、本書の概要と書評を記します。結論から言うと、FIRE探求僧やインデックス投資家にはおすすめできる王道的な書籍です。
『FIRE 最強の早期リタイア術―最速でお金から自由になれる究極メソッド』とは?
概要
この本の著者は、若干31歳にしてミリオネア入りしてアーリーリタイアを遂げ、FIREムーブメントの第一人者としてニューヨークタイムズ等の各種メディアでも活躍し、FIRE情報サイト「MILLENNIAL REVOLUTION」を運営するクリスティー・シェンとブライス・リャン夫妻です。
この夫婦が示すFIRE道は、おそらく最も再現性の高い手法の一つであり、また本ブログでも紹介している方法とほぼ同じとなります。そういう意味では王道的な手法と言えます。
具体的には、夫婦で共働きをすることにより可能な限り多くの収入を得て(といっても特段高い年収ではありません)、支出の最適化により可能な限り節約を行い(倹約家のことを本書ではオプティマイザーと呼びます)、余剰資金を投資に回すという手法です。
投資先は、国際分散投資のど真ん中を行く配分であり、インデックスファンドを用いた全世界株式:債券=60:40の配分です。若年期にはちょっと保守的にはみえますが、シャープレシオが最も優れると言われる王道の配分ですね。
株式の投資対象は全世界ではありますが、彼らの出身地であるカナダに少し多めに割り振る形であり、ホームカントリーバイアスが多少効いております。
出口戦略は4%ルールをメインとしてますが、4%ルールが破綻するケースはリタイア後5年以内に大暴落が来るケースです。従って、大暴落が来ても凌げる作戦として、著者夫妻は現金クッションと利回りシールドという手法を構築しております。
現金クッションとは現金を厚めに用意しておき、暴落相場が来ても二、三年は株式を取り崩さなくて良いというごく普通の手法です。一方、利回りシールドとは、ポートフォリオの一部に高配当戦略を織り交ぜることにより配当利回りを向上させ、暴落時に現金シールドの取り崩しを極力避ける手法です。
正直、トータルリターンが変わらないなら株式を取り崩そうが配当金を受け取ろうが同じだと思うのですが、その辺に対する記述はありませんでした。取り崩ししなくて済むという精神的な安心感を重視したのだと私は解釈しました。
この現金クッションと利回りシールドのおかげでこの夫婦はリタイア直後の暴落相場を無事乗り越え、3年後には資産規模が十分大きくなり安全圏に突入したようです。
さて、ここまでの話はオーソドックスな手法紹介でしたが、本書には独創的な部分が2点ありましたので、それぞれ以下で紹介します。
一つ目はPOTスコアからキャリアを選択すること、2つ目は世界中を旅しながらFIRE後の人生を楽しんでいるという点です。
POTスコアからキャリアを選択する
POTスコアとは、端的に述べると大学の専攻分野に対する「想定年収÷学費」という指標です。あるスキル(学歴)を得るのに必要な費用と、そのスキルにより得られる年収を比較しているという点で、POTスコアは学費や獲得スキルのコストパフォーマンスと言えます。
本書内には代表的な職業や専攻に対するPOTスコア一覧表が載っているのでご興味がある方には本書を手に取りご覧いただきたいのですが、POTスコアが異常に高いのがコンピューターサイエンスであるため、著者はシステムエンジニアとしてのキャリアを選択したようです。
もうすでに仕事についている人にはあまり参考にならない話ですが、お子様の進路相談や、心機一転他分野への転職を希望する人には有用な考え方と言えます。
ちなみに私は「大学とは学問を学ぶ場所であり、将来のお金を考えて専攻を選ぶような軟弱者になってはならぬ」と18歳当時は青臭い考えを持っていたため物理学徒となりましたが、今となっては「素直に医学部を選んでおけば今頃はFIREしてただろうなぁ・・・」なんてタラればを夢想する始末です。10代後半にしてちゃんと人生設計が出来ているのは凄いことですね。
それもそのはず、著者の奥様は非常に貧しい家庭で育ったそうで、医療器具のゴミの山を漁って「お宝」を探す幼少時代の極貧エピソードから本書の物語は始まります。1日数十セントで生活していた時期もあったようで、そこで身についた「欠乏マインド」が彼女に現実的な考え方を与え、若くしてミリオネアになれるように導いてくれたと回想しております。
貧乏な育ちの人にお金持ちが多いというのは実は一般論ともいえるのですが、このことは橘玲氏の『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』やトマス・スタンリー氏による『となりの億万長者』にも詳しく書かれております。米国の富裕層を分析すると、国外から来た移民の1代目などといったマイノリティが占める割合が多いという事実がその根拠となります。
話を元に戻すと、POTスコアは時代と共に変化するでしょうからある程度先読み能力が必要です。とはいえ、コンピュータサイエンスはAI全盛期となるこれからの時代に益々需要が増えるでしょうし、今高給取りである頭脳資源を多く使う職業も今しばらくの間は安泰でしょう。
20年後には知的階級もAIに完全に取り込まれると思いますが、その時にはAIによる過剰生産量を国民に再分配するようなユニバーサルベーシックインカムのようなシステムが出来上がっていると予想します。
FIRE後は世界中を旅しながら生活することが可能
個人的な本書のハイライトは、この部分でした。なんと、この夫婦はFIREしてからというもの、世界中を旅して周っているのです。それにも関わらず、年間生活費は旅に出る前のカナダでの生活費よりも小さいようで、わりと衝撃的な事実です。
からくりは簡単で、この夫婦は物価の安いアジア圏を中心に旅行をしているそうです。日本にもたまに来るそうですが、タイやベトナム、東南アジアなどが中心のようです。
これにより、生活費を大きく下げることが可能となるようです。物価の高い先進国で資産形成を行い、得られた不労所得を用いて物価の安い国で生活するという「地理的アービトラージ」という手法を提案しておられ、以下の記事で紹介したタイ移住作戦と同様の考え方です。
なお、FIRE後に世界中を旅しながら暮らすことは子持ち家族でも可能であると主張しており、現に子連れで旅する「ワールドスクーリング」というコミュニティが世界には存在するそうです。
確かに原理的には可能だと思いますし魅力的に思えますが、私にはちょっと勇気と覚悟の面で難しそうだなぁという感想です。
まとめ
FIREを達成したご夫婦による『FIRE 最強の早期リタイア術―最速でお金から自由になれる究極メソッド』を紹介しました。
文章自体がくだけていて読みやすく、内容的にも非常に面白かったです。(英語圏特有のジョークが度々挿入されていたのは少し煩わしかったですが(^^;)
本書は欧米のFIRE達成者達の中ではオーソドックスな内容であり、押さえるべきところは押さえられているためFIRE修行僧や投資家には読む価値が十分にあり、またストーリーと著者の個性がユニークでかつ読みやすいため多くの人にお勧めできる一冊です。
それにしても、やはり読書は良いですね!日々の幸福度を直接的にブチ上げてくれます。
コロナウイルスの脅威により自宅に引きこもらざるを得ない方々は、これを機に積極的に読書や学習により知的好奇心を満たしつつ興味対象の学びを深めることをお勧めします。
3月29日現在、Kindleストアにて投資書籍が格安で販売されております。半額以下になっている有名書籍が散見され、私は「敗者のゲーム」(紙版は持ってるのですが)と「市場サイクルを極める」、「人生100年時代の年金戦略」を買いました。ご参考まで!
以下、関連記事です。
4%ルールについては以下の記事をお読みいただければ知識量としては十分だと思います。インデックス投資の出口戦略として海外ではオーソドックスで合理的な超重要手法なのですが、何故か日本では普及してないです。
資産形成期は年利6-7%が期待でき、かつ出口時には「インデックス投資=利回り3-4%の高配当投資」とも解釈できる最強の手法だと思うのですが、これを理解する人が少ないようで残念です。
文中にも紹介しましたが、「地理的アービトラージ」の具体的手法は以下の記事で押さえられます。
現在はコロナショックにより絶賛大バーゲン中ですが、このバーゲンセールは「タイムスリップアービトラージ」とも考えられます。名目で1年あたり10%上がると考えれば、現在約3年間の時を戻した計算になります。
暴落時の買い増し戦略を以下の記事に示しました。私の投資対象であるS&P500は一番底では最高値から想定していた-2σ付近まで下落したので、私はすでにこの購入計画を概ね完遂しており、この相場で仕込まないでいつ仕込むという考えの元、現在は毎日積立により粛々と買い集めております。
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